「夕方になるとおでこがテカテカ、前髪しっとり。メイクも崩れる」そんな悩みを抱えていませんか。
私自身も鼻や額の皮脂が多く、長年その対策を研究してきました。
皮脂テカリ対策といえば下地やパウダーで抑えるのが手軽で強力です。
ですが、もっと抜本的にケアできる方法はないのか?!ということで、世界中の科学的エビデンスを探し回った結果、ヒトで効果が確認された強力な皮脂抑制成分を4つをご紹介します。
ナイアシンアミド+パンテノール
ナイアシンアミドはビタミンB₃の一種で、美白やシワ改善の有効成分としても認められているマルチタスク成分です。パンテノールも日本ではメラニン生成を抑える効果も認められていますね。
日本人100名と白人30名を対象とした、二重盲検プラセボ対照試験をご紹介します。
なお、二重盲検というのは、被験者も測定する人も誰が何を使ったかわからない試験で、思い込み効果をなくしたエビデンスレベルが高いデザインです。
(Draelos ZD, et al. J Cosmet Laser Ther. 2006 Jun;8(2):96-101.)
P (対象者): 皮脂分泌の多い日本人および白人
I (介入): 2%ナイアシンアミド + 1%パンテノール配合保湿剤を塗布
C (比較): プラセボ(有効成分なし)保湿剤
O (結果): 日本人被験者において、4週間後に皮脂排出率(SER)がプラセボグループと比較して有意に低下した。
この研究はナイアシンアミドの皮脂抑制効果の根拠としてよく引用されます。しかし、論文の有料版を確認すると、実際には「1%パンテノール」も配合された製剤での試験でした。
この2つの成分を組み合わせた製剤に、高い皮脂抑制効果があると証明されているので、おすすめの成分と言えます。
ナイアシンアミドの皮脂抑制作用をもたらすメカニズムは未解明とされていますが、一説には、ナイアシンアミドが体内でナイアシンに変換され、間接的に皮脂産生を減少させるのではと言われています。
(Marques, C., et al. Antioxidants 2024, 13, 425.)
L-カルニチン
L-カルニチンは体内で脂肪酸代謝に関与するアミノ酸誘導体で、「脂肪燃焼」を促して皮脂を減らす成分として注目されています。
細胞内のミトコンドリアへの脂肪酸輸送を促進し、分解代謝(β-酸化)を活発化させることで脂質の蓄積を減らし、分泌量を低下させます。
(Endly DC, Miller RA. J Clin Aesthet Dermatol. 2017 Aug;10(8):49-55.)
21名のボランティアを対象とした、二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験です。
(Peirano RI, et al. J Cosmet Dermatol. 2012 Mar;11(1):30-6.)
P (対象者): 皮脂分泌が中程度から高いボランティア
I (介入): 2% L-カルニチン含有乳液を顔に3週間塗布
C (比較): プラセボ乳液
O (結果): プラセボ群と比較して、L-カルニチン群の皮脂分泌率が有意に低下した。
この研究は、プラセボ対照の二重盲検試験であり、デザインがしっかりしているため信頼性は高いと評価できます。
作用機序もユニークで、皮脂の材料そのものをエネルギーとして消費させるというアプローチ。他の成分との併用でさらなる効果も期待できる、面白い成分だと思います。日本ではあまり有名ではないが、使ってみたい成分でもあります。
緑茶エキス(チャ葉エキス)
緑茶由来のカテキン類(特にエピガロカテキン-3-ガレート=EGCG)は、抗酸化・抗炎症作用に加え、皮脂腺における男性ホルモンの作用を抑える(抗アンドロゲン作用)ことで皮脂分泌を抑制するとされています。
22名の健康な成人男性を対象とした、単盲検プラセボ対照スプリットフェイス試験です。
(Mahmood T, et al. Hippokratia. 2013 Jan;17(1):64-7.)
P (対象者): 22~28歳の健康な成人男性
I (介入): 5%緑茶外用剤を頬に60日間塗布
C (比較): 反対側の頬にプラセボを塗布
O (結果): プラセボ側と比較して、皮脂分泌量が27%有意に減少した。
プラセボと比較して明確な有意差を示している点は非常に素晴らしいですよね。複数の研究で同様の結果が報告されており、エビデンスは豊富です。
ただし、紹介した研究の対象者が健康な男性のみである点は考慮すべきです。女性やニキビ肌の人でのさらなるデータが期待されます。
個人的には、日本人にも馴染み深い成分なので、配合検討したいなと考えています。
なお、化粧品表示名称では、チャ葉エキスです。
ライスパワーNo.6
日本の原料メーカー(勇心酒造)の独自成分です。2015年、医薬部外品の有効成分として、日本で唯一「皮脂分泌を抑制する」という効果が認められました。
24名の男女を対象とした、プラセボ対照ハーフフェイス試験がプレスリリースレベルで報告されています。
P (対象者): 20歳以上の男女24名
I (介入): ライスパワーNo.6配合製剤を朝晩2回塗布
C (比較): プラセボ
O (結果): おでこの皮脂が塗布前より18%前後減少し、プラセボと比較して有意に減少した。
参考:勇信酒造プレスリリース,https://www.yushin-brewer.com/news/2017/1201/20171201_no6.pdf
査読付きの学術論文として公開されていない点は、科学的エビデンスの厳密さという観点ではウィークポイントです。
しかし、それを補って余りあるのが「医薬部外品の有効成分」として国に効果を承認されているという事実です。
これは、有効性と安全性に関する膨大なデータを提出し、審査をクリアした証であり、他の化粧品成分とは一線を画す信頼性があると言えます。
こちらは、勇信酒造さんと取引のあるメーカーさんだけが使用できる成分です。
その他の成分はどうなの?アゼライン酸やレチノールなど
アゼライン酸
ニキビへの効果は臨床データが多い成分です。皮脂抑制については、ヒトのデータは見当たらないのですが、試験管レベルの研究では、皮脂分泌を促進する酵素「5α-リダクターゼ」を阻害する作用が示されています。
アゼライン酸はニキビ治療薬として非常に有用な成分ですが、「皮脂抑制」を主目的として推奨するには、直接的なエビデンスが不足しています。
ニキビへの効果の一環として皮脂環境が改善することは考えられますが、皮脂抑制効果を期待したい成分でもありますね。
参考文献:Stamatiadis D, et al. Br J Dermatol. 1988 Nov;119(5):627-32.
レチノール(ビタミンA誘導体)
レチノールは、皮脂腺の細胞増殖を抑制し、皮脂腺そのものを萎縮させる作用があるため、理論上は、化粧品でも皮脂抑制効果の可能性があります。しかしながら、明確なエビデンスはまだありません。
医療用の内服トレチノイン(イソトレチノイン)では明確な皮脂抑制効果が認められています。
Endly DC, Miller RA. Oily Skin: A review of Treatment Options. J Clin Aesthet Dermatol. 2017 Aug;10(8):49-55. Epub 2017 Aug 1. PMID: 28979664; PMCID: PMC5605215.
サリチル酸やグリコール酸(BHA・AHA)
角質を柔らかく溶かし、毛穴の詰まりを防ぐことでニキビを軽減する成分として有名で、オイリー肌向け化粧水などに汎用されます。ただし、皮脂抑制効果は認められていません。
ビタミンC(誘導体含む)
ビタミンCが皮脂を抑制するという効果は報告されていません。抗酸化作用が高いので、皮脂の抗酸化による肌荒れ防止は期待できるかもしれません。
シリカなどの吸着剤
シリカなどの多孔質パウダー(微細な穴が空いたパウダー)、肌表面に出てきた皮脂を物理的に吸着します。
皮脂テカリ防止下地、パウダーなどで汎用されており、私個人的にも強力な効果があると考えています。ですが、これは一時的な効果になります。
まとめ
今回は、皮脂抑制効果を持つとされる様々な成分について、その科学的根拠をPICO形式や私の見解を交えながら詳細にレビューしました。
これらの成分が使われているものを検索してみてはいかがでしょうか。薬事的には皮脂抑制が訴求できるのはライスパワーNo.6だけですが、隠れた皮脂抑制スキンケアが見つかるかもしれません。
また、開発者としては、現時点でエビデンスがなくても本当に効果がある成分もまだあると思います。それを見つけていき、あるいは組みわせて、本当によい製品開発に繋げていきたいなと考えています。