【専門家解説】おしりふきの成分「ポリアミノプロピルビグアナイド」は危険?発がん性の噂と本当の安全性を徹底検証
「赤ちゃんに使うおしりふきに危険な成分が入っている」というネットの記事を見て、心配される方がいらっしゃいます。
その成分の1つが「ポリアミノプロピルビグアナイド(PHMB)」という成分です。
ヨーロッパでは、「発がん性の疑いがある」「禁止成分リストに載った」といった言葉が見受けられ、ご心配の声をいただくこともあります。
結論から申し上げますと、PHMBは、通常の肌への使用であれば0.1%までの濃度で安全だと、EU・アメリカ・日本それぞれの公的機関が評価しています。おしり拭きでも安全だと考えます。
一方で、陰部やデリケートゾーンへの吸収について、直接のデータはまだありません。
ただ、この点についても個人的にはそこまで心配していません。理由は本文で解説します。
ポリアミノプロピルビグアナイド(PHMB)とは?おしりふきに使われる理由
ポリアミノプロピルビグアナイド(PHMBとも呼ばれます)は、化粧品やパーソナルケア製品において、細菌やカビの繁殖を防ぐ防腐剤として使用されている成分です。
日本ではほとんど使われてるのを見ないですが、海外系の商品ではスタンダードのようです。
水に溶けやすく、さまざまな種類の微生物に対して優れた防腐・殺菌効果を発揮します。
おしりふきのようにほとんどが水分でできている製品、かつ、指を出し入れするパッケージでは、微生物によって非常に傷みやすいため、品質を安全に保ち、赤ちゃんの肌を感染から守る目的でこの成分が配合されています。
「EUで禁止された」という噂の真相と、厳格な再審査
EUで禁止されたというのは事実です。
しかし、そこだけ切り取ると誤解されます。
もともとEUではこの成分を化粧品に「0.3%」まで配合することが認められていました。
しかし、ある動物実験において、極めて高い濃度を長期間与え続けた結果、腫瘍の増加が観察されました。これを受けてEUでは、PHMBは「発がん性が疑われる物質」に分類されました。
上記の分類を受け、欧州の消費者安全科学委員会(SCCS)が安全性の再評価を行い、「これまでの0.3%という濃度では、安全とは言えない」と判断し、一時的に使用が制限されました。
しかし。
その後SCCSは、濃度を下げた場合の安全性についてさらに厳格な再審査を行いました。
その結果、2017年の最終的な見解において、「スプレー製品を除き、すべての化粧品において最大0.1%の濃度で使用することは安全である」という結論を出しました。
どれくらいの「安全の余裕(安全マージン)」があるのか?
体内に入った時の毒性を評価する指標として、「安全マージン(Margin of Safety:MoS)」という指標があります。
これは、「動物実験で毎日一生涯にわたって与え続けても、健康に一切の悪影響が出なかった最大の量」に対して、私たちが実際に化粧品を使ったときに体に取り込まれる量が「どれくらい少ないか(何倍のゆとりがあるか)」を示す数値です。
毒性学の分野では、動物と人間の体の違いや、赤ちゃんから高齢者までの個人差、肌の弱い人などのさまざまな不確実性を考慮しても、このマージンが「100倍」以上確保されていれば、十分に安全であると評価されます。
では、ネット上で不安視されることもある「ポリアミノプロピルビグアナイド(PHMB)」の安全マージンはどれくらいなのでしょうか。
結論から言うと、227です。100をはるかに超えた安全マージンとなっています。
しかもこれは、かなり厳し目に、安全に安全にと見積もられた数字です。
どんな計算?
まず、前提として、非常に保守的な条件を置いていました。
毎日、全身に大量に塗りたくる:1日に使うローションやクリームなどの「あらゆる全身用化粧品(合計17.4グラム、約17.4mL)」のすべてに、規制の上限濃度である0.1%のPHMBが配合されていると仮定しています。
普通の化粧水なら多くて1g前後を1回塗る感じです。お尻ふきにすると、化粧液が肌に残る量はわかりませんが、そんなに多くないと思います。
成分がたっぷり吸収されると見積もる:人間の皮膚を用いた実験では、成分が完全に肌を通過して血管側へ移行した量はわずか「0.03%」でした。
しかし、この「完全に通過した量(0.03%)」に、「皮膚の奥にとどまっていた量(約1.56%)」や「個人差(2.5%)」までも含めて、あえて厳しめに「約4%が吸収される」と見積もった上で安全性を計算。
さらに、化粧品以外からの吸収も足し算する:万全を期すため、化粧品だけでなく、コンタクトレンズ洗浄液などの他の日用品から日常的に体に入ってくる可能性のある量までわざわざ上乗せしています。
結果は、基準を大きく超える「マージン227」
これらすべての悪条件を重ね合わせた上で、私たちが1日に体内に取り込む量(全身曝露量)を計算すると、最大でも「0.01361 mg/kg bw/d」というごく微量な数値になります。
これを、健康に影響が出ない基準値(ラットに与えて決定した無毒性量3.1 mg/kg bw/d)で割り算して余裕の度合いを求めると、結果は「227」となります。
つまり、「毎日17.4gもの0.1%配合化粧品を全身に塗り続け、さらに他の日用品からも成分を吸収する」という極端な生活を送ったと仮定しても、危険が生じる限界のレベルまでには「227倍」もの安全の余裕(マージン)が残されているということが、科学的な計算によってしっかりと証明されているのです。
おしりふきなら安全マージン600倍に?
上記の「マージン227」は、あくまで全身に17.4gもの量を塗りたくるという極端な計算です。
仮に、おしりふきのように使用量が限られており、拭いた後に肌に残る液量が例えば1日5回お尻拭きを毎日するとして、1g*5回=5g程度だとすれば、安全マージンは227倍からさらに跳ね上がり、600倍ものゆとりが生まれる計算になります。
さらに。
この安全マージンを計算する際の基準となっているデータは、ラットに「104週間(約2年間)」毎日成分を与え続けて導き出されたものです。
ラットにとっての2年間は、人間に換算すると「ほぼ一生涯」に相当します。
ということは、人間100歳までの寿命とすると、100年間毎日5回おしりふきをしても十分な安全マージンがあると言うことです。
米国や日本でも「安全」と0.1%が配合上限
この「0.1%」という濃度基準は、EUだけでなく、米国や日本でも同様です。
米国では、化粧品成分の安全性を評価する専門家機関(CIR)が、「刺激性および感作性を引き起こさないように処方された場合、現在の使用実態および濃度(主に0.1%以下)において、化粧品への使用は安全である」と結論づけています。
日本国内においても、厚生労働省の「化粧品基準」により、ポリアミノプロピルビグアナイドの配合量は、粘膜に使用される化粧品(おしりふきなどを含む)であっても「100g中に0.1g(0.1%)まで」と厳格に制限されています。
陰部への吸収は大丈夫?分子サイズから見る安全性
上記は一般的な皮膚へ適用した場合の計算です。
「赤ちゃんのおしり拭きのように、粘膜やデリケートゾーンに毎日使うと、成分がたくさん吸収されてしまうのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。
実際、ステロイドなどの一部の薬では陰部からの吸収率が高いことが知られています。
ただしステロイドは分子量が500以下で小さく、元々、皮膚浸透しやすい成分です。
一方、ポリアミノプロピルビグアナイド(PHMB)は、平均分子量が約2600〜4200 Daという非常に巨大な「高分子ポリマー」です。
分子サイズが大きすぎるため、バリア機能が薄い粘膜付近であっても、物理的に肌の奥深くへ入り込んで血液まで到達することは極めて困難と考えられます。
個人的な感想
ここからは個人的な感想ですが、そもそも「発がん性に影響するかもしれないもの」をリストアップすると、タバコ、紫外線、加工肉(ソーセージなど)や赤身肉の食べ過ぎなど、身の回りにはいくらでもあります。
それら全部を天秤にかけて、PHMBがどれほど影響するのでしょうか。
全てを細かく気にしていたら生活が成り立ちません。
現在の科学で配合上限が決定されているのなら、それを信じて穏やかに過ごすのが良いのではないでしょうか。
参考文献
- "Safety Assessment of Polyaminopropyl Biguanide (Polyhexamethylene Biguanide Hydrochloride) as Used in Cosmetics", Cosmetic Ingredient Review (CIR) Supplement Manuscript, 2020.
- "Opinion on Polyaminopropyl Biguanide (PHMB) - Submission III", Scientific Committee on Consumer Safety (SCCS), European Commission, 2017.
- 「化粧品基準」厚生省告示第331号(抜粋), 厚生労働省.

