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記事: 妊娠中のレチノールは危険?「塗る化粧品」のリスクを科学論文から徹底解説

美テラシー

妊娠中のレチノールは危険?「塗る化粧品」のリスクを科学論文から徹底解説

「妊娠中にレチノール化粧品を使ってしまったけれど、赤ちゃんに影響はないの?」と不安に感じていませんか?

インターネット上には「レチノールは妊娠中はNG」という情報が多く、不安な方もいるかもしれません。

先に結論をお伝えすると、「塗る」レチノール化粧品については、過度に心配する必要はありません。

信頼性の高い科学論文(メタアナリシス)の結論は、「外用レチノイド(塗るレチノール類)を使用しても、先天奇形や死産などのリスクが明らかに増えるという証拠はない」というものです 1)。

また、ヨーロッパの消費科学委員会(SCCS)では、妊娠中の人でも、0.3%までのレチノール化粧品は安全に使用できるとしています 2)。

一方で、食事からのビタミンAの方が影響が大きいので、トータルの摂取過多に注意。これについては別記事で解説します。

この記事では、誤解されがちな科学論文のデータを正しく読み解き、なぜ「塗るレチノール」であれば過剰な心配が不要なのか、その根拠をわかりやすく解説します。

この記事の執筆者
すみしょう
すみしょう(住田 祥)
化粧品研究者 / SNS総フォロワー50万人
上場企業で多数のスキンケア開発に従事。論文やエビデンスに基づく「美容の真実」をわかりやすく発信し、情報を疑って冷静に判断する力=美容リテラシー(美テラシー)を高める活動を続けています。
▶成分追求スキンケアブランド「スプレーゼ」開発責任者

【大前提】「飲む薬」と「塗る化粧品」は全く別物

まず、ここを区別することが最も重要です。

飲むレチノイド(イソトレチノインなど)

ニキビ治療薬として海外で使われる「イソトレチノイン」などの内服薬は、全身の血液に成分が回るため、胎児への悪影響(催奇形性)が確認されています。なので妊娠中は禁止です。

塗るレチノイド(トレチノイン外用薬、レチノール化粧品)

一方、塗るレチノイドは、ニキビ治療などで、医薬品ではトレチノインという成分が使われます。化粧品や医薬部外品では、レチノール、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール等が主に使われます。

今回は、この塗るレチノイドがどうなの?という話です。

塗るレチノイド論文が示す真実:リスク上昇の証拠は「なし」

2015年に『British Journal of Dermatology』という権威ある皮膚科学誌に掲載された研究結果 1)をご紹介します。メタアナリシスという、過去の信頼性の高いデータをまとめて総合評価するという、エビデンスレベルの高い研究です。

この研究では、妊娠初期に「塗るレチノイド」を使用した妊婦654人と、使用しなかった妊婦1,375人を比較調査しました。

以下は、文献を参考に、要約した結果です。

調査項目 (Outcome) オッズ比 (OR) 95%信頼区間 (CI) 判定
主要な先天奇形
(Major congenital malformations)
1.22 0.65 ~ 2.29 有意差なし
自然流産
(Spontaneous abortions)
1.02 0.64 ~ 1.63 有意差なし
死産
(Stillbirth)
2.06 0.43 ~ 9.86 有意差なし
人工妊娠中絶
(Elective termination)
1.89 0.52 ~ 6.80 有意差なし
低出生体重
(Low birthweight)
1.01 0.31 ~ 3.27 有意差なし
早産
(Prematurity)
0.69 0.39 ~ 1.23 有意差なし

「リスク2倍」という数字との向き合い方

この論文の中で、死産の数値(オッズ比)が「2.06」となっている箇所があります。これはレチノイドを使ってない人に比べて、「リスクが2倍!?」ということを示します。

しかし、統計学において重要なのは、表にある「95%信頼区間 (CI)」という幅です。このデータの信頼区間は「0.43〜9.86」と非常に広く、1.0をまたいでいます。

少し専門的な話になりますが、統計学では「信頼区間が1をまたぐ場合、その結果に差があるとは言えない(誤差の範囲である)」と判断します。

これは計算上は2倍になっているが、データが少なすぎで、偶然なのか、本当に2倍なのか判定できないという意味です。

つまり、科学的に正しい解釈は「塗るレチノイドによって死産が増えるという事実は確認されなかった(判定:有意差なし)」となります。

さらに「安心」と言えるもう1つの理由

ここで、さらなる安心材料として、もうひとつ重要な論文 3)をご紹介します。

実は、上記のメタアナリシス論文が引用している研究データの1つに、Panchaudら(2012)のデータがあります。

このデータでは、化粧品ではなく「トレチノイン(医薬品)」などの強力なレチノイドを使用していたケースが中心なのです。

Panchaudら(2012)の研究データを例に、具体的な内訳を見てみましょう。

局所レチノイドを使用したグループ(235人)と使用しなかった対照群(444人)について比較調査が行われました。

レチノイド使用妊婦235人のうち、使用していた成分の内訳は以下の通りでした。

  • トレチノイン(医薬品):143人(約61%)
  • イソトレチノイン(医薬品):52人
  • アダパレン(医薬品):24人
  • その他(レチノイン酸など):16人

このように、データの大多数を占めているのは医薬品成分です。

結果の具体的な内訳(人数)

「%」ではなく「生(なま)の人数」で見ると、事象がいかに少ないか(あるいは差がないか)がよく分かります。

調査項目 (Outcome) レチノイド群
(人数)
対照群
(人数)
オッズ比
(OR)
95%信頼区間
(CI)
出生 (Live born) 200 410 - -
自然流産 (Spontaneous abortion) 19 26 1.5 0.8 〜 2.7
人工妊娠中絶 (Elective termination) 15 7 3.4 1.5 〜 7.8
治療的中絶 (Therapeutic termination) 1 0 - -
死産 (Fetal death / Stillbirth) 0 1 - -
主要な先天奇形 (Major birth defects) 8 9 1.8 0.6 〜 5.4
小奇形 (Minor birth defects) 7 11 1.3 0.4 〜 3.7
レチノイド特有の奇形 (Retinoid embryopathy) 0 0 - -

※データ出典:Panchaud A, et al. J Clin Pharmacol. 2012;52(12):1844-1851. 3)
※奇形(主要・小・特有)の発生数は、出生児(レチノイド群200人、対照群410人)の中での人数です。
※ハイフン(-)は、発生数が0または極めて少数のため、論文中でオッズ比と信頼区間が算出されていない項目です。

この数字からわかることを解説します。

■ 死産について
曝露群(レチノイド使用)は「0人」です。つまり、この研究においては、薬を使ったせいで死産が増えたという事実は全くありません(むしろ使わなかったグループで1名発生しています)。

■ 奇形について
235人の妊婦さんが薬を使ってしまいましたが、生まれた赤ちゃんで重い奇形があったのは8人(約3.4%)でした。薬を使っていないグループでも9人(約2.0%)発生しており、統計的には「誤差の範囲(差があるとは言えない)」と結論づけられました。

最も恐れられていた「レチノイド特有の奇形(耳や心臓の異常など)」は、235人中 0人 でした。これが「安心材料」の最大の根拠となっています。

■ 人工中絶について
唯一「有意差」が出た(明らかに増えた)のは「人工中絶(約3.4倍)」でした。 これは薬の副作用ではなく、催奇形性を恐れる「不安」や医療者側の過度な懸念が原因となり、本来なら健康に生まれたはずの妊娠を中断させてしまった可能性が指摘されています。

つまり、本当に怖がるべきなのは、「過度な不安によるストレスや判断」なのかもしれません。

よくある質問:「でも、やっぱりリスク2倍という数字が怖いのですが…」

ここまで読んでも、「統計の話はわかったけど、実際に2倍という数字が出ていること自体が気持ち悪い」と感じる方もいるかもしれません。

それはとても正常な感覚です。その不安に対して、もう少し噛み砕いてお話しします。

これを「サイコロ」で例えてみましょう。

もし、あなたがサイコロを数回振って、たまたま「1」が連続で出たとします。その時、「このサイコロは1が出る確率が高い!」と断定できるでしょうか?

おそらく「いや、たまたまでしょう(回数が少なすぎるから)」と思いますよね。

今回の論文のデータもこれに似ています。死産というケース自体が非常に少ないため、たまたま数人の差が出ただけで、計算上の数字が大きく見えてしまったのです。

死産のようなレアケースは、例えば100人中1人が、たまたま2人になっただけで『確率は2倍!』と計算されてしまいます。でも、それが『薬のせい』なのか『単なる偶然』なのかは、もっと大人数で見ないと分かりません。

結論:妊娠中に気づかずに使ってしまっても大丈夫?

大丈夫です。過度に心配する必要はありません。

論文の著者たちも、「妊娠中に誤って外用レチノイドを使用してしまったとしても、心配して中絶などを検討する必要はない」という主旨の結論を述べています。

日本のガイドラインや各メーカーの注意書きでも、妊娠中はレチノールを使わないでという話はありませんよね。

それでも、問い合わせや相談をすると、化粧品メーカーや医師は「念のため控えたほうが無難」と言うのは、「心配の種を減らすため」という側面もあるかと思います。

妊娠中のレチノールは、リスキーな結果は見つからなかった。ですが、完全に安全であるという証明はできません(悪魔の証明というもので、リスクゼロを証明するのは難しい。どれだけ探してもまだ出てきてないだけかもしれません)

不安な方はストレスになると思うので、妊娠中はレチノールを使わずに、シンプルなケアで過ごすというのも1つです。

まとめ:妊娠中のスキンケアとの付き合い方

  • 「飲む」レチノイド薬は絶対NG。でも「塗る」化粧品とは別物です。
  • 最新の研究では、塗るレチノイドによる胎児への悪影響(奇形や流産・死産)の増加は確認されていません。
  • 研究データの多くは「化粧品よりも強力な医薬品」を使った人たちの結果であり、それでも影響は出ていません。
  • もし妊娠に気づかず使ってしまっていても、焦ったり自分を責めたりする必要はありません。

妊娠中はホルモンバランスの変化で肌が敏感になりやすい時期でもあります。

科学的な根拠を知った上で、ママが一番リラックスできるスキンケアを選んでくださいね。

 


参考文献:
1. Kaplan YC, et al. Pregnancy outcomes following first-trimester exposure to topical retinoids: a systematic review and meta-analysis. Br J Dermatol. 2015;173(5):1132–1141.
2. SCCS (Scientific Committee on Consumer Safety), Revision of the scientific Opinion on Vitamin A (Retinol, Retinyl Palmitate, Retinyl Acetate), SCCS/1639/21, final version of 24-25 October 2022.
3. Panchaud A, et al. Pregnancy Outcome Following Exposure to Topical Retinoids: A Multicenter Prospective Study. J Clin Pharmacol. 2012;52:1844-1851.

 

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